大判例

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大津地方裁判所 昭和58年(行ウ)1号 判決

滋賀県守山市赤野井町六八二番地

原告

高畑徳弘

右訴訟代理人弁護士

小川恭子

吉原稔

木村靖

野村裕

滋賀県草津市大路二丁目三の四五

被告

草津税務署長

藤野文良

右指定代理人

梶山雅信

永松徳喜

三田村義信

平井義隆

堀秀行

宮崎雄次

福田隆彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五六年七月一七日付でなした、原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分の所得税更正処分のうち、昭和五三年分については総所得金額一九七万五五一〇円、昭和五四年分については同二一〇万円、昭和五五年分については同二一三万五〇〇〇円をそれぞれ超える部分、及び同日付でなした過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五三年分ないし昭和五五年分(以下、本件係争各年分という。)の所得税について、(別表1の1)「確定申告」欄記載のとおり、被告に対して確定申告した。

2  これに対し、被告は、昭和五六年七月一七日(別表1の1)「更正処分」欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件各処分という。)をした。

3  そこで、原告は被告に対し、昭和五六年八月二一日意義申立をしたところ、被告は同年一一月二〇日これを棄却したため、原告は更に同年一二月一四日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五七年一〇月一五日、右審査請求を棄却する旨の裁決をなし、その裁決書は同年一一月九日ころ原告方に送達された。

4  しかしながら、本件各処分は、実額課税が可能であるのに推計課税の方法によつてなされたものであり、かつ、原告の総所得金額を過大に認定したもので違法である。

5  よつて、原告は被告に対し、請求の趣旨のとおり本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1ないし3の事実はすべて認める。

2  同4、5の主張はいずれも争う。

3  なお、本件課税処分の経緯は、(別表1の1)記載のとおりである。

三  抗弁

1  原告は、板金工事業及び農業を営む者である。

2  本件各処分に至る経緯(推計の必要性)

(一) 被告は、原告の本件係争各年分の所得税調査のため、部下職員を昭和五六年四月一七日以降、本件各処分に至までの間、七回にわたり原告宅へ赴かせ、また、その間、四回にわたり電話で原告に対して調査に応じるよう説得した。

(二) しかし、原告は、当初、被告の調査に際し、無関係の第三者を立会わせ、その第三者と共に「調査理由は何か」「調査理由が納得できない」「第三者の調査立会を認めよ」「申告の基となつた書類を見せるから反面調査はするな」「反面調査は本人の承諾を得てから行なえ」等発言するばかりで、調査に応じようとしなかつたため、被告はやむを得ず、原告の取引先等について反面調査をした。

(三) 被告は、その後も部下職員を原告宅へ赴かせて、所得金額算定資料の提示を求めたが、原告は立会の第三者共々、「なぜ反面調査をした」「勝手な反面調査をしているのだから調査には応じられない」等と繰り返し、被告部下職員の再三の要請により、ようやく板金工事所得に係るごく一部の領収書及び請求書を提示したものの、その他の取引内容及び経費関係についての帳簿書類の提示をしないばかりか、事実に関する具体的な説明もしなかつた。

(四) 原告の農業所得についてもその収入金額及び必要経費を裏付ける証拠資料の提出がなかつた。

(五) 以上のように、原告が被告の税務調査に応じず、また、原告の提出したいずれの資料によつてもその総所得金額を実額計算することができなかつたので、被告は、やむなく推計課税の方法により原告の所得金額を算定することにし、原告の事業所得については、その取引先等の反面調査の結果に基づき、また、原告の農業所得については、農業所得標準を適用して、各所得金額を推計したものである。

3  原告の総所得金額

本件係争各年分の原告の総所得金額は、(別表1の2)被告主張欄記載のとおりで、その計算根拠は以下のとおりであるところ、原告の総所得金額の範囲内でなした本件各処分はいずれも適法である。

(一) 事業所得

原告の事業所得の明細は、(別表2)記載のとおりである。

(1) 売上金額

後記(2)〈1〉の売上原価を、本件係争各年別に、(別表3の1)ないし(別表3の3)記載の同業者の平均売上原価率(売上原価を売上金額で除したもの)で除して算定したものである。その計算式は(別表2)欄外に記載のとおりである。

(2) 必要経費

以下〈1〉ないし〈4〉の合計額である。

〈1〉 売上原価

明細は(別表4)記載のとおりである。

なお、原告は、本件係争各年において、棚卸を実施しておらず、また、本件係争各年を通じて、その事業内容及び事業規模に著しい変動があつたとは認められないから、本件係争各年の期首と期末の棚卸高を同額とみて各年分の仕入金額を、その年の売上原価とした。

〈2〉 一般経費

審査請求の際の原告の申立額である。

〈3〉 外注加工費

原告が細井誠一及び細井誠二に支払つた金額であり、その明細は(別表5)記載のとおりである。

〈4〉 事業専従者控除

本件係争各年分いずれも原告の妻である高畑八重子に対するものであり各年について各四〇万円である。

(二) 農業所得

原告の本件係争各年分の農業所得金額は、(別表6)記載のとおりである。なお、原告の農業所得にかかる田(二一アール)は守山市播磨田に、畑(一アール)は同市赤野井町に各所在する。

4  推計の合理性

(一) 事業所得

(1) 同業者の選定方法

被告は、原告と事業内容が類似する同業者の平均売上原価率を用いて原告の本件係争各年分の事業所得金額を推計したが、右推計に当たり採用した同業者は原告の住所地を管轄する草津税務署と、これに隣接する近江八幡、水口、大津各税務署管内の、青色申告により、所得税確定申告書を提出している同業者のうちから、本件係争各年を通じて以下の条件のすべてに該当するものを選定した。

〈1〉 板金工事業を営んでいること

〈2〉 右以外の事業を兼業していないこと

〈3〉 売上原価が四〇〇万円から一五〇〇万円までの範囲であること

〈4〉 年間を通じ、継続して事業を営んでいること

〈5〉 不服申立又は訴訟係属中でないこと

なお、同業者の抽出は大阪国税局長の前記各税務署長に対する通達に基づき機械的に行われたものであつて、抽出に当たつて恣意の介入する余地はない。

(2) 平均売上原価率の算定

右基準によつて選定した同業者は一五名であり、これら同業者の当該年の所得税青色申告決算書に基づいて、その平均売上原価率を算定した。

(3) 原告との類似性

原告は、本件係争各年において、草津税務署管内に住所地を有して板金工事業を営んでいた者であるが、被告が同業者比率の算定に当たつて採用した一五名の同業者は、前記(1)の基準によつて採用したものであり、業種は原告と同一であり、かつ、業態及び規模も原告と類似している。

(4) 以上により、被告がこれら同業者の平均売上原価率を適用して、原告の事業所得金額を推計したのは合理性を有する。

(二) 農業所得

被告が、原告の農業所得金額の推計に当たつて使用した農業所得標準は、毎年被告が耕作面積等一定の外形的標準に基づいて客観的かつ合理的農業所得金額を算定することを目的として、草津税務署管内の農業所得者の収入金額及び必要経費等の調査結果を基に関係市町村及び農業団体と協議のうえ定めているのであり、具体的には市町村において最終的に定めた農業所得標準を、湖南地区農業所得標準協議会が取り纏めたものを草津税務署において一覧式に整理し作成したものである。

これは、一般にも公開され、大多数の農業所得者はこれに基づいて自主申告している。

なお、右地区農業所得標準協議会は、各市町村が農業所得にかかる住民税及び所得税の課税を適正、円滑に行うため、毎年作成する農業所得標準の各市町村間での調整及び課税の均衡を図るため設置されているもので、左のとおりの構成となつている。

委員 税務署管内の各市町村長

幹事 税務署管内の各市町村税務課長

顧問 税務署長、税務署管内の各府県事務所長

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、原告が板金工事業を営む者であることは認め、その余は否認する。原告が農業を営んでいる事実は初めこれを認めたが、それは事実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるから右自白を撤回し、右事実を否認する。

原告申告中の農業所得にかかる農業は、原告の父名義の田で父の名義で営まれていたものであり、原告に農業所得は存しない。原告が農業所得の申告をしたのは、錯誤に基づくものである。

2  抗弁2の事実について

(一) (一)中被告部下職員が数回にわたり原告宅を訪問したことは認める。

ただし、原告が在宅し、被告部下職員と会つたのは最初の訪問であつた昭和五六年四月一七日及び予告のあつた同年五月二日、一五日、六月一六日の合計四回であり、他の訪問は予告もなく原告不在の時であつた。

(二) (二)中原告が「第三者の調査立会を認めよ」と発言したことは認め、その余は否認する。

現に第三者の立会の下に三回の調査が行われており、立会を認めるか否かでもめごとがあつたり、そのため調査に支障が生じたということはない。

(三) (三)中原告が一部の領収書及び請求書を提示したことは認め、その余は否認する。

事実に関する帳簿書類の提示及び事業に関する具体的説明については、昭和五六年六月一六日の調査日において、昭和五五年の仕入等につき、原告側が発生主義であるのに、被告部下職員が現金主義的に昭和五五年一二月末日までの仕入金額を主張してきたため、原告が当月の締日以降の分は翌年分として計算すべきだと主張し、双方に差異があつたため、再度計算し直して次回の調査日に備える旨の合意がなされており、現に一部書類の提示をするなど、帳簿書類の提示及び事業の説明を順々に行つていくことで話し合われていた段階であつた。

(四) (四)は争う。

原告は、以上述べたような経過から今後も引続き調査が進行するものと思つていたところ、突然調査打切りのうえ本件各処分に至つたものである。

(五) (五)は推計の必要性を争う。

3  抗弁3の事実について

(一) 冒頭部分は争う。

(二) (一)(事業所得)について

その冒頭部分は争う。後記のとおり原告の事業所得の明細は、(別表7)記載のとおりである。

(1) 売上金額

争う。後記のとおり原告の売上金額は(別表7)記載のとおりである。

(2) 必要経費

〈1〉 売上原価

原告の仕入金額が(別表4)記載のとおりであることは認める。

〈2〉 一般経費

一般経費の金額は認める。

〈3〉 外注加工費

争う。細井誠一及び細井誠二は、原告の常雇の従業員であつて外注加工の事実はない。右は、雇人費として計上されるべきものである。

〈4〉 事業専従者控除

認める。

(三) (二)(農業所得)について

前段は争い、後段は認める。

4  抗弁4の事実について

推計の合理性は争う。

(一) 事業所得

(1) 同業者の選定方法

争う。

板金工事業といつても、その内容には既製品の取付等を主として営む者と自ら金属板から加工して製品を製造する者、その他各種の業態の違いがあり、それぞれ利益率が異なるはずである。

したがつて、そのような業態及び利益率の違いを考慮せず、平均売上原価率で計算することは相当でない。

なお、原告の板金工事業には以下のような特徴がある。

〈1〉 建築板金のみ、特にそのうちでも、樋工事を主体に行つている。

〈2〉 樋工事は、塩ビの既製品の樋の取付が主であり、屋根工事も既製品の使用が多く、金属板の成型は、米貯蔵器、一部銅板工事を除いて殆ど行つていない。

金属板の加工に比し、既製品の使用は一般的に利益率が低い。

〈3〉 雇人を二人使用している。

そのため、原告において、この雇人の仕事も確保する必要があり、一人でやる場合に比し、営業費、交際費その他の経費の増加がある。

〈4〉 家族に板金工事のできる者がいない。

妻は、専従者であるが、工事自体の技能はなく、事務手伝しかしておらず、原告自身の働きの分しか収入とならず収益が低い。

これに対し、他の業者では、息子等と共に仕事をしており、その働きによる収入も事業主の収入になつているため、高収益の外形を呈している。

〈5〉 原告の得意先の工務店は、小規模のものが多く、その都度頼んで仕事をもらうという関係にあり、利益率が低い。

これに対し、他の多くの業者は比較的大きい工務店と提携しており、恒常的に同種の仕事を大量にこなすことで収益率を上げやすい立場にある。

(二) 農業所得

仮に、原告が農業を営んでいる事実についての自白の撤回が認められなかつたとしても、原告の農業経営の実態は以下のとおりであり農業所得標準による推計は相当でない。

(1) 耕地面積は被告主張のとおり、水田二一アール、畑一アールであるが、減反休耕中の水田二アールがあり、実耕作面積は水田一九アール、畑一アールである。

(2) 水田は、原告の妻の姉高橋美代子に耕作を委ね、耕作料を支払つている。

(3) 畑は、自家用の野菜少量及びミカンの木を植える等趣味的に行つているもので、収益といえるものはない。

五  抗弁に対する原告の反論

1  本件各処分の違法性の主張

(一) 所得税法は、申告納税制度を根幹としているが、この制度は、賦課徴収方式に比べ、主権者たる国民が自ら税額を計算し、納税する点において、憲法の精神に適う民主的制度であり、優れた課税方式といえる。

この制度の下では、更正処分は、国民に対し一方的に新たな納税義務を課すものであり、例外的な場合にのみ許容されるものである。その場合においても実額課税が原則であつて、実額計算に因らない推計課税は例外的措置である。

従つて、推計課税の必要性は厳格に解するべきであるところ、これは納税者が適法な調査に合理的な理由なく協力しないため実額による課税標準及び税額等が把握し得ない場合にのみ認められるべきである。

また、推計による更正処分が適法であるというためには、推計が合理的であること、即ち、推計の基礎資料が正確なものであり、しかも、各々の具体例に応じ、できるだけ真実の所得金額に近似した額を把握し得るような推計方法と認められるものでなければならない。

(二) また、実額課税すべきところを誤つて推計課税をした場合、あるいは、推計の方法が合理性を欠く場合には、当該更正処分はあくまで違法であつて、例えその推計に基づく課税標準及び税額等がその取消訴訟の口頭弁論終結時までに提出された資料により、客観的に存在することが認められたとしても、更正処分は権力的作用であるから、国民の人権保障の見地からして、当該更正処分の違法性は治癒されず、それはあくまで違法となる。

よつて、更正処分取消訴訟の審判の対象が、客観的な課税標準及び税額等の存否であり、その計算が推計か実額計算かは攻撃防御方法の違いに過ぎないとの被告の後記主張は、国庫主義的権力主義的税務観を基調とするものであつて、適性手続の保障の視点を欠くものである。

(三) これを本件についてみるに、原告は、前記のとおり、昭和五六年六月一六日以降引続き調査に協力する姿勢を有していたのであるから、被告において調査を続行しておれば実額計算が可能であり、原告の申告が適正であることが判明したはずのところ、被告は調査を十分に行わないままで、かつ、調査不十分が原告の責任であるかの如く装つて、推計課税の方法によつて本件各処分をなしたものであり、前記の推計課税の要件を欠き違法である。

2  課税要件の主張立証責任についての主張

(一) 国税通則法二四条は、「申告にかかる課税標準又は税額等が税務署長の調査したところと異なるとき」に更正処分ができる、として更正処分の要件を定めていることからすれば、本件各処分が右の要件を満たし、適法になされていることを被告において立証すべきである。従つて、被告は本件各処分時における調査資料により本件各処分の適法性を立証すべきである。

(二) 本件各処分が、原価率で売上金額を出したうえ、これに所得率を掛けて所得金額を推計する方法によつていたのを、本訴においては、所得率をやめて、原告が審査請求の際に申立てた一般経費及び細井両名の草津市長他に対する申告金額を基礎とする計算方法に変更しているが、このような計算方法の変更は許されない。

(三) 守秘義務を理由として、同業者の住所氏名を秘匿し、単に売上金額と売上原価のみを記載した公務員作成の書面をもつてする立証には、原告において反論できるものではなく、当事者公平の原則及び訴訟上の信義則に反するものである。また、被告提出の書証中には氏名を開示したものがあり矛盾している。

3  実額の主張

(一) 原告の本件係争各年分の所得金額の実額は(別表1の2)原告主張欄記載のとおりである。

このうち、事業所得金額の明細は(別表7)のとおりであり、その内訳は(別表4)及び(別表8)ないし(別表12)のとおりである。また、農業所得金額の明細は、(別表13)のとおりである。

(二) 事業所得金額中、一般工事決算表に「その他」として一括計上したものは、小口売上をまとめて記載したものである。その内容は、例えば、

(1) 農家に直接販売した米缶

(2) 一般家庭に売つた材料(仕入値に五パーセント位掛けて販売)

(3) 一般家庭等発注の樋、修理等小口工事(三万円以下)

等である。

昭和五五年分の一般工事決算中の「その他」の金額が他年分より少ないのは、小額のものまで明記したためである。

(三) 農業所得金額中、耕作料額の決定方法は以下のとおりである。

(1) 米は、毎年三俵を高橋が取得し、その余を原告方で取得する。

(2) これと正式に小作契約によつて授受されている小作料との差額は現金によつて精算するが、その具体的な額は、小作料の相場(一反当たり米二俵程度)を勘案して、その年の収穫後、原告の妻と高橋とで協議して決定した。

(3) 本件係争各年における右耕作料額は、(別表13)記載のとおりである。

(4) なお、その支払方法は、高橋の側から請求のある度に、その時の必要額を支払うという方法で数回に分けて支払つていた。

六  原告の反論に対する被告の認否及び再反論等

1  自白の撤回に対する異議

原告が農業を営んでいる事実に対する原告の自白の撤回について、被告は異議がある。

農業所得において、その農業の事業主が誰であるかは、実質課税の原則(所得税法一二条)に従い、農地の所有名義の如何にかかわらず、その農業経営方針の決定等に支配的影響力を有し、かつ、事業収益を実質的に支配している者という観点から決定されるべきである。

本件においても、右観点からして、農業所得の帰属者は原告であつて、単に土地の所有名義が原告の父親であるとの理由のみをもつて、原告に農業所得がないとする原告の主張は失当である。

更に、原告は昭和五一年分より、自らその名義で農業所得を申告し、本件各処分時、異議申立、審査請求に至るまで、その帰属を全く争わず、自らの所得としてその多寡について主張するなど、農業所得が原告の支配下にあつたことを原告自ら認めていたものというべきである。

2  推計の合理性にかかる原告の反論に対する被告の認否及び再反論

(一) 認否

原告主張の農業経営の実態(四4(二))のうち、(1)中減反の水田二アールがある事実は否認し、(2)及び(3)の事実は知らない。

(二) 被告の再反論

推計課税をするために同業者率の算定をする場合、各同業者の営業状況に差があるのはむしろ当然のことであつて、その平均値を求めるのが推計課税の目的である。同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は無視しうるものであつて、納税者の個別的営業状況の如何はそれが当該平均率による推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、これを斟酌しないで良いものと解すべきである。

被告は、前記のとおりの基準で同業者を選定しており、推計の基礎的要件に欠けるところはない以上、営業状況の個別的特性は同業者率の中に包摂され、平均化しているものである。

3  本件各処分の違法性の主張に対する被告の再反論

(一) 所得税につき、第一次的には申告納税制度が採用されているとはいえ、税務官庁には、更正又は決定の権限が与えられており、この権限は納税者の適正な申告を常に制度的に担保し、租税負担を実質に即した適正なものたらしめようという理念に基づくものであるから、この権限の行使たる更正処分は単に補充的、例外的な場合にだけ許されるものと解すべきではない。よつて、原告の主張は失当である。

確かに、課税所得は実額によつて計算されるべきであり、実額計算が所得金額を把握する方法として最も合理的な方法であり、これを無視してみだりに推計課税の方法をとるべきでないことはいうまでもないが、実額の調査は、納税者の収入及び支出を明らかにしうる営業上の帳簿その他の書類の整備、調査に対する協力があつて初めて可能であるから、それらの帳簿類が備わらず、また、帳簿類があつてもその記帳に欠陥があつたり、記帳内容が信頼できない場合、あるいは、納税者が調査に非協力的であつてその収支の実態を明らかにできない場合には推計課税をせざるを得ない。

よつて、推計課税の要件を原告主張の場合に限るとすることは妥当ではない。

(二) 更正処分の適法有効要件は、更正処分で示された所得金額が存在することであり、その取消訴訟においても、審理の対象は当該処分により認定された課税標準等の存否である。

従つて、仮に実額計算ができる場合に、推計課税を行つたとしてもその故をもつて推計による更正処分がすべて取消されるものではなく、推計による更正処分所得額が、実額計算による所得額を上回つた場合に限つて、更正処分の内容が実額計算による所得額に修正されるにすぎない。

(三) 五1(三)にかかる原告の主張は、前記のとおり事実に反する。

また、実額計算が可能であるというためには、原告主張のように調査に当たつた部下職員がもつと適切に説明し、理を尽くせば、帳簿書類を開示し、質問に答えたであろうというのみでは不十分であり、その帳簿書類や応答の内容が信頼でき、実額計算が可能であることをも含むものでなければならない。

4  課税要件の主張立証責任の主張に対する被告の再反論

(一) 国税通則法二四条にいう「その調査したところ」とは、調査により認定された課税標準等を指すと解すべきであり、同条は申告にかかる課税標準等が税務署長の認定にかかる課税標準等と異なるときは、税務署長は自己が認定した課税標準等に従つて申告額を変更しうるとする規定に過ぎず、それ以上の意味はない。同条が調査の主体、客体、方法、態様等について全く規定せず、抽象的に「調査」というにすぎないことからすれば、そこにいう「調査」とは課税標準等の認定に至る一連の判断過程の全体を意味する包括的な概念ととらえるべきであつて、現実具体的に実施された調査を指すものと解することはできない

(二) 更正処分取消訴訟における審理の対象は、当該処分において認定された課税標準等の存否であつて、所得金額を証する事実の主張は、処分の理由の主張として単なる攻撃防御方法の主張に過ぎず、当該処分当時、処分庁がいかなる調査をし、どのような事実を認識していたかとはかかわりなく、口頭弁論終結時まで、所得金額を証すべきあらゆる資料の提出が許されるというべきである。

(三) 被告は、所得税法二四三条の守秘義務を負つており、その主張立証には自ずから制約がある一方、租税負担の公平上、たやすく特定の納税者に対する課税を放棄することもできない。従つて、同業者の住所氏名等を秘匿したうえでの立証も許容されるべきである。

被告提出書証中には、氏名を開示したものがあるが、それも文書内容の全てを明らかにしたものではなく、原告と直接関係のある部分を限定して必要最少限度の開示に止めておりやむを得ないというべきである。

5  実額の主張に対する被告の認否及び再反論

(一) 認否

争う。

(二) 被告の再反論

原告は、被告主張の原告の売上原価、一般経費を認めて固定させたうえ、売上金額が被告主張額を下回ることを主張立証するようであるが、原告があくまで実額の主張をするのであれば、売上原価、一般経費との関連において被告主張の売上金額がないこと、即ち、原告の売上金額が売上原価、一般経費と対応することまで立証して初めて推計による所得が過大認定であり、合理性を欠くとの有効な反証となるものである。

原告は、その主張する売上金額に対応する帳簿及び領収書控の全部を書証として提出せず、一部欠落させているが、これらは売上金額に対応して当然に存在するべきものであつて、原告はこれを故意に隠匿していると考えられ、原告主張以外の売上金額が存在する可能性がある。

原告が「その他」として一括計上している売上は、原告の事業内容からして、恒常的な収入であつたと考えられるところ、昭和五三年分六一万円、昭和五四年分五二万一〇〇〇円あつたものが、昭和五五年分だけ五万円にも減少することは不自然である。

原告は、売掛金経理をしていないから、売上先の都合で支払が翌年になつた場合、また、年末において工事未済の場合には、適正な売上金額は算定されないことになる。

農業所得金額中耕作料額の決定方法にかかる原告主張事実のうち、原告が高橋に耕作料を支払つていた事実はない。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実{原告が本件係争各年分の所得税について(別表1の1)「確定申告」欄記載のとおり確定申告したこと、被告が昭和五六年七月一七日(別表1の1)「更正処分」欄記載のとおりの本件各処分をしたこと、原告の異議申立とこれに対する被告の棄却決定、原告の審査請求とこれに対する棄却の裁決など}については、当事者間に争いがない。

右争いのない事実と弁論の全趣旨によると、本件課税処分の経緯は、(別表1の1)記載のとおりであることが認められる。

二  そこで、本件各処分に原告主張の違法、即ち第一に本件各処分は実額課税が可能であるのに推計課税の方法によつてなされた違法、第二に被告が原告の総所得金額を過大に認定した違法が存するか否かについて判断する。

1  右第一の違法の存否、換言すれば推計課税の適否について

(一)  推計の必要性(本件各処分に至る経緯)

証人藤島満の証言により真正に成立したものと認められる乙第七ないし第九号証、証人伊藤実、同工藤敦久、同石嶋政吉、同成瀬喜幸、同藤島満の各証言(ただし、証人石嶋政吉の証言につき後記措信しない部分を除く。)及び原告本人尋問の結果(第一回、ただし、後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ(ただし、以下において認定説示する事実の中には、事実欄記載のとおり、当事者間に争いのない事実も含まれているが、説示の便宜上特にその旨明示しないこととする。)、右認定に反する証人石嶋政吉の証言、原告本人尋問の結果(第一回)は前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 被告は、原告の本件係争各年分の所得税の税務調査のため、伊藤実らの部下職員を昭和五六年四月一七日以降、本件各処分に至までの間、六、七回にわたり原告宅へ赴かせ、また、その間、数回にわたり電話で原告に対して調査に応じるよう説得した。右税務調査のための原告宅訪問につき、初回と四、六、七回に限り事前通知はなかつたが、その余は全て原、被告協議のうえ訪問期日が定められた。

(2) しかし、原告は、当初、被告の調査に際し、無関係の第三者たる民主商工会(以下、民商という。)関係者一〇名位を立会わせ、主にその一部の第三者が「調査理由は何か」「調査理由が納得できない」「第三者の調査立会を認めよ」「申告の基となつた書類を見せるから反面調査はするな」「反面調査は本人の承諾を得てから行なえ」等発言するのを黙認するばかりで、調査に応じようとしなかつたため、被告はやむを得ず、原告の取引先等について反面調査をした。

(3) 被告は、その後も伊藤実らの部下職員を原告宅へ赴かせて、所得金額算定資料の提示を求めたが、原告は前記同様に主に立会の第三者たる民商関係者が「なぜ反面調査をした」「勝手な反面調査をしているのだから調査には応じられない」等と繰り返すのを黙認し、被告部下職員の再三の要請により、ようやくごく一部の領収書及び請求書を提示したものの、その他の取引内容及び経費関係についての帳簿書類の提示をしないばかりか、事業に関する具体的な説明もしなかつた。

(4) 原告の農業所得についてもその収入金額及び必要経費を裏付ける証拠資料の提出がなかつた(なお、原告が農業を営む者であることは後記認定のとおりである。)

(5) 以上のように、原告が被告の税務調査に応じず、また、被告は原告の提出したいずれの資料によつてもその総所得金額を実額計算することができないと判断し、被告は、やむなく推計課税の方法により原告の所得金額を算定することにし、原告の事業所得については、その取引先等の反面調査の結果に基づき、また、原告の農業所得についは、被告が取り纏めた農業所得標準を適用して、各所得金額を推計したものである。

以上の事実によると、本件においては推計の必要性が存するものというべきである。けだし、原告は被告の税務調査に非協力的態度を取り続けており、六、七回にもわたる税務調査の際遂に原告所得の実額算定に必要な資料を被告に提示せず、従つて、被告において原告の所得を実額算定することは不能であつたことが認められるところ、公平な税徴収を計る立場にある被告が推計課税の方法を選択したことはやむを得なかつたものと評価できるからである。

よつて、請求原因4前段及び抗弁に対する原告の反論1にかかる「本件においては推計の必要性がなく、従つて被告が推計課税の方法を選択したことは違法である」旨の原告の主張は理由がない。

(二)  推計の合理性

抗弁1のうち、原告が板金工事業を営む者であることは当事者間に争いがなく、前掲乙第七ないし第九号証、成立に争いのない乙第二ないし第六号証、証人工藤敦久、同藤島満の各証言及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 事業所得

ア 同業者の選定方法

被告は、原告と事業内容が類似する同業者(板金工事業者)の平均売上原価率を用いて原告の本件係争各年分の事業所得金額を推計したが、右推計に当たり採用した同業者は原告の住所地を管轄する草津税務署と、これに隣接する近江八幡、水口、大津各税務署管内の、青色申告により所得税確定申告書を提出している同業者のうちから、本件係争各年を通じて以下の条件のすべてに該当するものを選定した。

〈1〉 板金工事業を営んでいること

〈2〉 右以外の事業を兼業していないこと

〈3〉 売上原価が四〇〇万円から一五〇〇万円までの範囲であること(なお、原告の本件係争各年分の売上原価が別表4のとおりであることは当事者間に争いがない。)

〈4〉 年間を通じ、継続して事業を営んでいること

〈5〉 不服申立又は訴訟係属中でないこと

なお、同業者の抽出は大阪国税局長の前記各税務署長に対する通達に基づき機械的に行われたものであつて、抽出に当たつて恣意の介入する余地はない。

イ 平均売上原価率の算定

右基準によつて選定した同業者は一五名であり、これら同業者の当該年の所得税青色申告決算書に基づいて、その平均売上原価率を算定した。

ウ 原告との類似性

原告は、本件係争各年において、草津税務署管内に住所地を有して板金工事業を営んでいた者であるが、被告が同業者比率の算定に当たつて採用した一五名の同業者は、前記アの基準によつて採用したものであり、業種は原告と同一であり、かつ、業態及び規模も原告と類似している。

(2) 農業所得

原告が農業を営む者であることは後記認定のとおりであるところ、被告が、原告の農業所得金額の推計に当たつて使用した農業所得標準は、毎年被告が耕作面積等一定の外形的標準に基づいて客観的かつ合理的に農業所得金額を算定することを目的として、農業所得者の収入金額及び必要経費等の調査結果を基に関係市町村及び農業団体と協議のうえ定めているものであり、具体的には市町村において最終的に定めた農業所得標準を、湖南地区農業所得標準協議会が取り纏めたものを草津税務署において一覧式に整理し作成したものである。これは、一般にも公開され、大多数の農業所得者はこれに基づいて自主申告している。

なお、右地区農業所得標準協議会は、各市町村が農業所得にかかる住民税及び所得税の課税を適正、円滑に行うため、毎年作成する農業所得標準の各市町村間での調整及び課税の均衡を図るため設置されているもので、左のとおりの構成となつている。

委員 税務署管内の各市町村長

幹事 税務署管内の各市町村税務課長

顧問 税務署長、税務署管内の各府県事務所長

以上の事実によると、推計の基準は合理性を有するものと認められるので、原告の本件係争各年分の売上原価が(別表4)記載のとおりであることは当事者間に争いがない本件においては、被告が前記認定の同業者の平均売上原価率を適用して、原告の事業所得金額を推計したことは適法であり、また、原告の農業所得金額の実額を把握できない本件において、被告が農業所得標準を利用して原告の農業所得金額を推計したことは適法である。

よつて、請求原因4前段及び抗弁に対する原告の反論1にかかる「本件においては推計の合理性がなく、従つて被告が推計課税の方法を選択したことは違法である」旨の原告の主張は理由がない。

ところで、原告は第一に「守秘義務を理由として、同業者の住所氏名を秘匿し、単に売上金額と売上原価のみを記載した公務員作成の書面をもつてする立証は、原告において反論できるものではなく、当事者公平の原則及び訴訟上の信義則に反するものである。また、被告提出の書証中には氏名を開示したものがあり矛盾している。」旨を、第二に「板金工事業といつても、その内容には既製品の取付等を主として営む者と自ら金属板から加工して製品を製造する者、その他各種の業態の違いがあり、それぞれ利益率が異なるはずである。従つて、そのような業態及び利益率の違いを考慮せず、即ち、原告の板金工事業の各種特徴(その内容は抗弁に対する認否4(一)(1)記載のとおりである。)を考慮せず平均的売上原価率で計算することは相当でない。」旨を主張する。

しかしながら、第一の点については、被告は、所得税法二四三条の守秘義務を負つており、その主張立証には自ずから制約がある一方、租税負担の公平上、たやすく特定の納税者に対する課税を放棄することもできない。従つて、同業者の住所氏名等を秘匿したうえでの立証も許容されるべきである。また、被告提出書証中には、氏名を開示したものがあるが、それも文書内容の全てを明らかにしたものではなく、原告と直接関係のある部分を限定して必要最少限度の開示に止めておりやむを得ないというべきである。第二の点については、推計課税をするために同業者率の算定をする場合、各同業者の営業状況に差があるのはむしろ当然のことであつて、その平均値を求めるのが推計課税の目的である。同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は無視しうるものであつて、納税者の個別的営業状況の如何はそれが当該平均率による推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、これを斟酌しないで良いものと解すべきである。被告は、前記のとおりの基準で同業者を選定しており、推計の基礎的要件に欠けるところはない以上、営業状況の個別的特性は同業者率の中に包摂され、平均化しているものである。そし、本件全証拠によつても、原告の板金工事業に右意味での「顕著な営業条件の差異」は見い出し難い。

2  前記第二の違法の存否、換言すれば被告認定にかかる原告の総所得金額の適否について

(一)  まず、事業所得を(別表2)記載の明細に沿つて認定する。

(1) 売上金額

原告の本件係争各年分の売上原価が(別表4)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、前掲乙第三ないし第六号証、証人工藤敦久の証言によると、同業者の平均売上原価率は(別表3の1ないし3)記載のとおりであることが認められ、従つて、前記認定の推計の基準たる同業者の平均売上原価率を適用して、原告の本件係争各年分の売上金額を算定すると、(別表2)「売上金額」欄記載のとおりの売上金額となる。

ところで、原告は抗弁に対する原告の反論3のとおり「実額の主張」をし、右主張に沿う甲号各証中の多数の書証、証人石嶋政吉の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)も存在するが、被告主張のとおり、原告は被告主張の原告の売上原価、一般経費を認めて固定させたうえ、売上金額が被告主張額を下回ることを主張立証するようであるが、原告があくまで実額の主張をするのであれば、「売上原価、一般経費との関連において被告主張の売上金額がないこと、即ち、原告の売上金額が売上原価、一般経費と対応することまで」、あるいは「原告主張の実額が真実の所得金額に合致することを合理的疑いを容れない程度まで」立証して初めて推計による所得が過大認定であり、合理性を欠くとの有効な反証となるものと解すべきである(大阪高等裁判所昭和六二年九月三〇日判決、高等裁判所民事判例集四〇巻三号一一七頁参照)。

本件においてこれをみるに、本件全証拠によるも、「売上原価、一般経費との関連において被告主張の売上金額がないこと、即ち、原告の売上金額が売上原価、一般経費と対応すること」は認められず、また、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によると、原告はその主張する売上金額に対応する帳簿及び領収書控等あるいはいわゆる原始記録の全部を書証として提出したものではなく、一部欠落させていることが認められるところ、これらは売上金額に対応して当然に存在するべきものであつて、原告はこれを敢えて提出しないものと推測され、この点を考慮すると原告主張以外の売上金額が存在する可能性があるものと推測されるので、本件においては「原告主張の実額が真実の所得金額に合致することを合理的疑いを容れない程度まで」立証がなされたものとはいえない。

よつて、原告の「実額の主張」は理由がない。

(2) 必要経費(以下、〈1〉ないし〈4〉の合計額である。)

〈1〉 売上原価

原告の本件係争各年分の売上原価(仕入金額)が(別表4)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

〈2〉 一般経費

一般経費が(別表2)「一般経費」欄記載のとおりの金額であることは当事者間に争いがない。

〈3〉 外注加工費又は雇人費

原告の細井誠一、誠二への支払につき、原告は雇人費と、被告は外注加工費と主張するが、両者とも必要経費中の特別経費に該当することは明らかであるから、以下どちらに該当するかの判断は省略し、原告の支払金額のみを認定するものとする。

成立に争いのない乙第一〇、第一一号証、証人成瀬喜幸の証言及び弁論の全趣旨並びに本件記録中の乙第一〇、第一一号証の証拠説明書によると、原告の細井誠一、誠二への支払金額は、(別表2)「外注加工費」欄記載のとおりであることが認められる。

ところで、右認定に反する甲第一号証、第一一号証の一ないし四(給料帳たるノート)、証人細井誠一、同細井誠二の各証言も存在するが、

ア 甲第一一号証の一ないし四については、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二五号証、原告本人尋問の結果(第二回)及び弁論の全趣旨によると、右給料帳たるノートは本件税務調査時である昭和五六年六月ころより後に作成されたものと認められるから、その記載内容はそのままには信用できない。

イ 甲第一号証については、証人石嶋政吉は右給料帳以外に「メモ」を参考にした旨証言しているが、アで認定のとおり右給料帳の記載内容が信用できないうえ、右「メモ」は未提出であり、甲第一号証の記載内容の正確性を検証できないのであるから、結局甲第一号証の記載内容はそのままには信用できないといわざるを得ない。

ウ 証人細井誠一、同細井誠二の各証言については、原告から細井誠一、誠二への正確な支払金額の明確な証言はなく、原告主張額の裏付となるほどの証拠価値を見い出せない。

他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、原告はアルバイト代として(別表9の3)記載のとおりの必要経費がかかつた旨を主張し、アルバイト用員がいたことを裏付ける証拠として、証人細井誠一、同細井誠二の各証言、原告本人尋問の結果(第一回)も存在するが、本件全証拠によるも、原告が(別表9の3)記載のとおりの金額をアルバイト用員に支払つたことは認められず、結局原告の右主張は採用できない。

〈4〉 事業専従者控除

原告の妻高畑八重子関係の事業専従者控除が本件係争各年分とも各四〇万円であることは当事者間に争いがない。

(二)  次に、農業所得について検討する。

(1) 原告が農業を営む者であるか否か(自白の撤回の可否との関連での判断)

本件記録によると、原告は被告の「原告は農業を営む者である。」との主張に対し、一旦「認める。」と述べた後に、自白を撤回したので、被告がそれに対して異議を述べたことが認められる。

そこで、自白の撤回の可否につき、検討するに、本件全証拠によるも、右自白の内容が真実に反することは認められないから、右自白の撤回は効力がなく右自白の拘束力は維持されるというべきである。

(2) 農業所得

原告の農業所得にかかる田(二一アール)は守山市播磨田に、畑(一アール)は同市赤野井町に各所在することは当事者間に争いがなく、この事実と前掲乙第七ないし第九号証、証人高橋美代子、同藤島満の各証言及び弁論の全趣旨によると、原告の本件係争各年分の農業所得金額は、(別表6)記載のとおりであることが認められる。

ところで、原告は高橋美代子に対して耕作料を(別表13)「合意耕作料額」記載のとおり支払つていた旨を主張し、右主張に沿う甲第八号証一ないし三、第九号証、証人高橋美代子の証言も存在するが、これらの証拠は、成立に争いのない乙第一七号証、証人高橋美代子の証言により認められる「耕作料に関する契約書が存在しないこと」及び「高橋美代子は本件係争各年より前から原告の水田を耕作していたところ、本件係争各年より前分については高橋美代子は耕作料を受領していないこと」に照らして、そのままには措信できない。

また、原告は本件係争各年分において減反があり、実際の作付面積は一九アールである旨を主張し、右主張に沿う甲第八号証一ないし三、証人高橋美代子の証言、原告本人尋問の結果(第一回)も存在するが、これらの証拠は、本件全証拠によるも減反に伴う手続及び収入が何ら明らかにされていないこと、成立に争いのない乙第二〇ないし第二二号証により認められる「原告は守山市赤野井町一〇四番一〇(一三二平方メートル)、同町六八二番(二六九平方メートル)にも田を所有していること」に照らして、そのままには措信できない。

(三)  まとめ

以上の事実によると、原告の総所得は(別表1の2)の被告主張の「総所得金額」欄記載の金額となるところ、本件各処分の前提となる被告認定の原告の総所得金額は(別表1の1)記載のとおりであるから、本件各処分は適法であり、原告の「本件各処分は原告の総所得金額を過大に認定したもので違法である」旨の主張は理由がない。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西池季彦 裁判官 片岡勝行 裁判官 戸田彰子)

(別表1の1)

課税処分経緯表

〈省略〉

(別表1の2)

本訴主張金額対照表

〈省略〉

(別表2)

事業所得金額の明細(被告主張)

〈省略〉

(計算式)

(年度) (売上原価) (原価率) (売上金額)

53 9,121,613÷0.4363=20,906,745

54 8,895,505÷0.4444=20,016,887

55 9,837,063÷0.4309=22,829,108

(別表3の1)

同業者の売上原価率

昭和53年分

〈省略〉

(別表3の2)

同業者の売上原価率

昭和54年分

〈省略〉

(別表3の3)

同業者の売上原価率

昭和55年分

〈省略〉

(別表4)

仕入金額の明細

〈省略〉

(別表5)

外注加工費の明細

〈省略〉

(別表6)

農業所得金額の内訳(被告主張)

〈省略〉

(別表7)

事業所得金額の明細(原告主張)

〈省略〉

(別表8)

雇人費の内訳

〈省略〉

(別表9の1)

給料支払明細表(細井誠二)

〈省略〉

(別表9の2)

給料支払明細表(細井誠一)

〈省略〉

(別表9の3)

アルバイト

〈省略〉

(別表10の1)

昭和53年分一般工事決算

〈省略〉

(別表10の2)

昭和53年分工務店別工事決算

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

(別表10の3)

その他、単発工事及び農協関係

〈省略〉

(別表10の4)

総括一覧表

〈省略〉

(別表11の1)

昭和54年分一般工事決算

〈省略〉

(別表11の2)

昭和54年分工務店別工事決算

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

(別表11の3)

その他、単発工事及び農協関係

〈省略〉

(別表11の4)

総括一覧表

〈省略〉

(別表12の1)

昭和55年分一般工事決算

〈省略〉

〈省略〉

(別表12の2)

昭和55年分工務店別工事決算

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

(別表12の3)

その他、農協関係

〈省略〉

(別表12の4)

総括一覧表

〈省略〉

(別表13)

農業所得の内訳(原告主張)

〈省略〉

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